血管外漏出に関する重要な資料を提示しています。
リバノール湿布の有効性
薬液が漏れたときに使用しているリバノール湿布の有効性について、実験的に検討してみました。実験動物を用いて、臨床と同様の点滴漏れの病変を実験的に再現して評価・検討しました。方法ですが、抗がん剤であるアドリアシン(協和発酵)と漏れたときに皮膚傷害を伴うセルシン(武田製薬)をラットの皮下組織に漏らして病変を作製しました。その病変にリバノール湿布を施し、血液検査と病理検査を行いました。その結果、リバノール湿布単体での有効性は認められませんでした。つまり、点滴漏れにリバノール湿布は効果がないことがわかりました。詳しい研究内容は「日本看護技術学会誌,3(1),58~65,2004」に記載されています。
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点滴漏れケアの現状
点滴漏れ後のケアに関するアンケート結果をまとめました。 (画像あり)
アンケート結果によると、全国調査(1)でも、岩手県内(2)でも、どの罨法もほぼ同じ割合でした。さらに、どの罨法においても、薬剤の吸収促進や痛みの軽減、循環促進など、それぞれ同様の効果を期待しているという結果も報告されています。
引用文献:
(1)菱沼典子,大久保暢子,川島みどり:日常業務で行われている看護技術の実態:第2報,医療技術と重なる援助技術について.日看技会誌1(1):56-60,2002
(2)武田利明:看護学における実証的研究の取り組み:技術の根拠と効果の探究.日看技会誌3(1):5-6,2004 (岩手県立大学看護学部 教授 武田利明)
薬剤の血管外漏出時のリバノール湿布使用の成り立ち
薬剤の血管外漏出時にリバノール湿布を使用するようになった成り立ちについて、関連論文をご紹介します。
■1977年 ヨ-ド造影剤により著明な皮膚障害の発生した1例-経静脈性尿路造影剤における新しい副作用-:久保田 進 [他] 臨床泌尿器科 31(8) pp.p733?735 1977/08
血管外漏出について,筆者の所有する日本の論文でもっとも古いものです.
漏出後は冷却とありますが,リバノール湿布の記載はありません.
■1984年 静注時の血管外漏出:大浦武彦 薬事新報 1292 pp.25-28 1984
抗がん剤の漏出について解毒剤の使用が述べられていますが,リバノール湿布についての記載はありません.
■1986年 抗がん剤の血管外漏出による障害と予防:石原和之 最新医 41 pp.2636-2641 1986
この年になり,初めてリバノール湿布が記載されました.
ただし,ステロイド剤の局所注射との併用です.
■1986年 抗癌剤による難治性潰瘍:桑名隆一郎,岩瀬悦子,松本真里,大谷晶子,浦田喜子,安積輝夫 皮膚臨床 28(5) 511~514 1986
発表は,1986年ですが事例は1984年のものです.
抗がん剤漏出時にリバノール湿布を貼付と記載があります.
【まとめ】
以上のことから,現場では,石原論文(1986)以前もリバノール湿布が行われていたようです.
(岩手県立大学看護学部 基礎看護学講座 助教 小山奈都子)
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アドリアシン漏出時の組織写真
看護技術としての静脈注射
点滴静脈内注射を含む静脈注射は、薬剤の投与経路として最も薬効の発現が迅速で、微量薬剤の投与にも適しているため臨床現場では日常的に用いられており、看護師が実施することが多い技術のひとつである。
平成14年以前の静脈注射は、厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)により、薬剤の血管注入により、身体に及ぼす影響が甚大であること、技術的に困難であるとの理由により、医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5条に規定する看護師の業務の範囲を超えるものであるとの行政解釈が示されてきた。
しかし、平成13年に実施された看護師等による静脈注射の実態についての厚生労働科学研究の結果では、94%の病院の医師が看護師等に静脈注射を指示している、90%の病院の看護師等が日常業務として静脈注射を実施している、60%の訪問看護ステーションで静脈注射を実施している、ということが明らかになった。
また、新たな看護のあり方に関する検討会は、平成14年9月6日「静脈注射は看護師の業務の範囲を超えるものとの行政解釈が示されて以来50年以上が経過し、その間の看護教育水準の向上や、医療用器材の進歩、医療現場における実態との乖離等の状況も踏まえれば、医師の指示に基づく看護師等による静脈注射の実施は、診療の補助行為の範疇として取り扱われるべきであると考えられる。」との見解を示した。
これを踏まえ、平成14年9月30日付け厚生労働省医政局長通知により「看護師等が行う静脈注射は診療の補助行為の範疇として取り扱う」という新たな行政解釈の変更がなされた。これにより、以前にも増して看護師が実施する静脈注射は増加し、看護師のより確かな技術と知識が求められている。また、看護師業務の範疇となっても、薬剤の血管内投与による身体への影響が大きいことに変わりはなく、医療安全の確保は何よりも優先されるべきものであり、解釈変更で患者の安全性が損なわれることのないようにすべきことは言うまでもない。
薬剤の血管外漏出のケア
本来血管に投与されるべき薬剤が、注射針や輸液ラインの固定不足や患者の体動等の理由で血管外に漏出した場合、薬剤の血管外漏出(点滴漏れ)となり、薬剤によっては周囲の皮膚組織が壊死に陥るような重篤な傷害を引き起こすことがある。また、点滴漏れ時のケアに関するアンケート調査結果によると、直後に温罨法を行うとした看護師が37%、冷罨法を行うとした看護師が40%とほぼ同じ割合であった。温罨法においても、冷罨法においても痛みの軽減、循環促進、薬剤の吸収促進など、それぞれ同様の効果を期待して行っているというアンケート調査の結果も報告されており、他にヘパリン類似物質を含むローション等の薬剤を使用する場合もある。
このように薬剤の血管外漏出に起因する皮膚傷害に対しケアの目的は同じでも、相反するケアが臨床の場で実践されており、看護師が自らの経験に基づいて効果があるであろうと考えるケアを選択していると思われる。
また、薬剤の血管外漏出を発見した際の状況やケア後の観察不足とともに、看護記録への記載が不十分である現状がある。その要因として、薬剤の血管外漏出を発見するための統一した観察項目がないこと、観察した結果を記載する際の明確な基準がないこと、ケア後どの程度の期間まで継続して観察が必要であるのか明確ではないことなどが挙げられる。
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血管外漏出に注意すべき薬剤
引用
- 田村敦志: 点滴漏れによる皮膚障害, 診断と治療, 87巻増刊号, 1999, 289-293.
- 衛藤光: 抗がん剤漏出性皮膚障害-予防と処置・対策のための基礎知識-, 看護, 2000, 52(11), 102-105.
効果に関する基礎的研究について
点滴漏れ発見時のアセスメントシート
点滴漏れケア後のアセスメントシート