【研究目的】
抗がん剤の血管外漏出は、0.5~6.5%の頻度で発生しているとされ、それらの中には重篤な後遺症を残すケースもある。抗がん剤漏出が発生した場合、一般的に冷罨法が行われているが、ビンカアルカロイド系抗がん剤に関しては、冷罨法を行うと重篤な潰瘍を形成するという報告もあり、罨法方法に関して統一した見解が得られていない。そこで本研究では、ビンカアルカロイド系抗がん剤であるビノレルビン酒石酸塩(ロゼウス<SUP>®</SUP>)による、漏出性皮膚傷害に対する罨法作用の検討を行うことにより、適切な看護技術を構築するための基礎的知見を得ることを目的とした。
【研究方法】
1)使用薬剤:ロゼウス<SUP>®</SUP>0.8㎎/mlを使用した。2)使用動物:生後10週
齢のCrj:Wistar系雄性ラットを実験に供した。実験群の構成は、冷罨法群3匹、温罨法群3匹、無処置群3匹の合計9匹を使用した。3)漏出方法:麻酔下でラットの背部をバリカンで剃毛し、剃毛部を摘み上げ、薬液を皮下組織に1匹当たり2ヶ所各0.5ml投与し、漏出病変を作製した。4)冷罨法群:漏出部位の皮膚表面温度を18~21℃に保ち、漏出直後から30分間冷罨法を行った。5)温罨法群:漏出部位の皮膚表面温度を40~42℃に保ち、漏出直後から30分間温罨法を行った。6)無処置群:漏出後罨法を施すことなく放置し観察を行った。7)検索方法:実験群すべての動物について、経日的に観察し、10日目に漏出部位の肉眼的観察と写真撮影を実施し、深麻酔下で皮膚組織の摘出を行った。摘出した皮膚組織については、皮下組織、筋組織の肉眼的観察を行った。8)倫理的配慮:本研究は岩手県立大学研究倫理審査委員会の承認を得た上で,動物福祉の視点から適正に実施した.
【結果・考察】
一般的に、ビンカアルカロイド系抗がん剤漏出時の処置として危惧されることが多い冷罨法であるが、本研究結果では、漏出翌日に6例中4例で発赤、2例で潰瘍が確認された。潰瘍を翌日に形成したのは冷罨法群のみであり、その潰瘍は漏出部全体を占め、広範囲に痂皮を形成した。また、発赤1例が、その後に軽度な潰瘍まで至った。一方、漏出後の処置として推奨される温罨法であるが、皮膚傷害は、翌日に全ての漏出部で発赤と腫脹が確認され、2日目にはいずれも潰瘍へと移行した。その後3例が重篤な潰瘍へと移行し、冷罨法と比べると、より強い皮膚傷害を呈した結果が得られた。罨法を行なわない無処置群においては、漏出翌日、漏出部6例全てに発赤と腫脹が確認され、いずれも全て重篤な潰瘍へと移行した。本研究において冷罨法は、6例中3例で潰瘍までには至らず、発赤・腫脹で留まっており、ロゼウス<SUP>®</SUP>漏出時の処置としては、冷罨法の効果が期待できる可能性が示唆された。冷罨法は初期の対応として適切なケアと考えられるが、抗がん剤が漏出した場合は、冷罨法を過信せずに継続的観察が重要であると考えられる。